コッツウォルズの亜麻畑

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2019年10月4日金曜日

ガーデニングの癒し効果・・・園芸療法


園芸療法 horticultural therapy には古い歴史があり、特に西洋では古くから行われてきました。何世紀も前から園芸を利用して精神的あるいは身体的な問題を持った人々の治療に病院や地域で行われていたことが記録にも残っているそうです。

そして現代でもさまざまな取り組みが行われていて、その一端をイギリスBBC放送の9月27日放送の番組「ガーデナーズワールド」では紹介されています。






最初に、アリット・アンダーソンさんはケントのブラックソーン医療センターに行き、そこでは患者さんが長期の精神的および身体的問題に対処するのを助けるためにドクターによってガーデニングが処方されます。併設のブラックソーン・トラスト・ガーデンで治療は行われます。

アリットさん(右)はセラピーコーディネーターのスザンナさ(左)から話を聞きます

患者さんは最初に庭でできるだけ過ごすように励まされ、ほかの患者さんたちといっしょに作業をしたりして集団での生活に少しずつ馴染むようになっていきます。園芸はそのプロセスを安全に進めることができます。



リサさんは交通事故のあと二年ほど前にここにやってきました。交通事故で慢性の腰痛が続いたのです。ここに来なければ今でもずっとベッドで横になって過ごしていただろうと話します。



ビビアンさんは社会的孤立などからここで治療しています。マークさんは2年ほど前に下半身不随になり、持続性の痛みで苦しんでいましたが、数か月前からここに通っています。


ポールさんはうつ状態の治療のためにここへやってきました。未来への希望ももてるようになって、自営で園芸の仕事をはじめています。



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アダム・フロストさんは、パーキンソン病の患者に継続的な支援を提供するために作られたオックスフォードシャーのコミュニティ・ガーデン (Parkinsons.Me Community Garden) を訪ねます。


パーキンソン病は進行性の脳の神経疾患で、手の震え、筋肉のこわばり、遅い動き、などの症状を出し、今のところ治療は十分にはできない病気です。


このガーデンをつくる中心となったのは7年前の41歳の時にパーキンソン病の診断をうけたスタットさんです。パーキンソン病の患者さんたちを含めた多くのボランティアの人々により庭園が造られて昨年オープンしました。

アダム(左)とスタットさん(右)
 ここではパーキンソン病の患者さんが来てリラックスでき、ほかの患者さんたちと話をしたりすることができます。
パーキンソン病では身体的だけでなく、情緒的、精神的にだんだん機能が低下していきますが、ここに来るとよく動けるようになると患者さんは言います。


地元の小学校から生徒たちを招き、昆虫の巣箱を作ったりガーデニングをしたりしてもらい、パーキンソン病の人たちとも交流しています。




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ジョー・スウィフトさんが患者の健康のためにデザインしたアイルズベリーのストーク・マンデビル病院の脊髄損傷センターを訪問します。

もともとこの病院の中にはは芝生と生垣があるだけでした。



2年前にスウィフトさんに庭のデザインの依頼がきました。


そして庭の造成が行われ、


庭が完成しました。


ここでは事故などで脊髄損傷を受けて歩けなくなった人たちが入院して治療をうけています。


ここでは庭と病室がオープンにつながっています。



庭には車いすで動きやすいデザインで見舞いの人々と一緒に過ごせる大小のスペースが確保され、風や水の音、美しい緑や花々などが患者さんや見舞いの人たちの心を癒してくれます。


植物の挿し木などもベッドのままで参加できるなど、ガーデニングにも参加して心身のリハビリテーションが実践されています。




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エセックスでは、ミッシェル・トーマスさんが作った庭が紹介されます。庭にたくさんのバラを育てることが精神的健康に大きく役立っています。
ミッシェルさんは子供のころは学校ぎらいだったそうです。その後ロンドンにでていろんな仕事をして、その後結婚、長女が生まれ、二人目に男の子ができましたが生後間もなくなくなりました。その後3人の男の子を持ちましたが、ずっと暗い日々が続いて、結局自分が双極性障害やPTSDであることがわかりました。
27年前に長女がビニールポットに入ったバラの苗を買ってくれました。それを一面芝の庭に穴を掘って植え、それから剪定の仕方や肥料のやり方を知って、今も庭に元気に花をつけています。その後、息子たちからもらったバラの苗をたくさん植えてバラの花壇を作っていきました。そしてバラを育てることが気分を向上させることに気づいたのです。





彼女のお気に入りのシェッドは、ここから眺めるバラの花の美しさ、その香りの素晴らしさなど、心穏やかに過ごせる場所になっているそうです。


二年前に子供たちはみんな巣立っていき、庭で何かを新たにやっていこうと決心し、ちょうどNGSナショナルガーデンスキームのことを知り、チャリティーでの庭の公開をしているそうです。彼女は最後に、
  "I finally realized after all these years that if I'm gardening I'm going to be okay. I feel safe, happy, and it works. " (これまでの長い年月のあと最後に気づいたのは、ガーデニングをしていればそれで大丈夫ということ、とても安心で、幸せで、確かなのです)




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最後に再びアリットさんが登場、健康を改善する自然界の力の背後にある科学を調査したアメリカのジャーナリストのフローレンス・ウィリアムズさんに会います。

フローレンスさんは世界中を回って、自然、緑の空間、そして庭園が私たちに与える影響についての考え方を大きく変える科学的なエビデンス(証拠)を集めています。

彼女は20年間はアメリカの西部の山の中で暮らし、その後ワシントンDCに移りました。ストレスが多く、よく眠れず、人々が自然欠乏症とよぶ状態になっていると感じたそうです。そしてこの分野の最前線の研究を訪ねて回っているのです。


最初に紹介するのは日本の例です。日本人はストレスが多く、長時間働いています。日本の政府は森林浴 (forest bathing) を実際に推進しています。自然の中に入って五感を働かせるのです。においをかいだり、音を聞いたり、肌でそよ風を感じたりするのです。研究者たちは、それによって血圧が下がったり、呼吸が落ち着いたり、コーチゾール(ストレスホルモン)が下がったりすることを確かめたのです。たった15分そとで五感を働かすだけで効果があるのです。

脳波を使った実験も行われていて、街中と自然の中では前頭葉の活動が自然の中では抑制されるのです。使いすぎて疲れた筋肉を休めるのと似ていています。短時間の休憩のあと職場に戻ると仕事の効率が上がり、よりクリエイティブになれるのです。

日本や韓国では、妊婦やがん患者、燃え尽き症候群の人々などに森林浴などの健康増進プログラムが処方されています。



庭などの屋外でどれくらいの時間活動すれば効果があるのかという疑問には、イギリスでの研究では一週間に2時間という結果が出されています。一日に20分か30分かご近所の樹木の多いところや、公園や、あるいは職場の中庭で木々や空の雲をみて、自然の光を感じればよいのです。





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日本も特に江戸時代以降、大変園芸がさかんな文化をもつ国ですが、1990年代には(財)日本緑化センターが「園芸療法の現状調査」を実施し、「ホーティカルチュラルセラピー実践のための庭づくり」をまとめて紹介しています。

最近ではガーデニング雑誌の「ビズ BISES」(現在休刊中)が2014年からガーデンセラピーという記事を連載して、さまざまな国内外での取り組みが紹介されていました。

庭にいるだけでストレスは減り、庭仕事をすればさらに精神や身体にとってよい効果が生まれることは、多くの人々が感じていることだと思います。生活にちょっとした緑をとりいれるだけでも、より健康的な生活に結びついていけそうですね。